この連載の記事
1. 「世界戦争」とは何だったのか
ロシアのウクライナ侵攻が始まってすでに一年が経った。
2. 戦争と西洋―「政治の延長」としての戦争
ここでひとつ確認しておきたいことがある。
3. 西洋の「世界化」とその帰結
先回、クラウゼヴィッツの戦争の規定やヘーゲルの哲学について縷々[るる]述べるのは、「世界戦争」とは(だけでなく「世界」とは)どのようなものだったのかを確認すること、そしてその前提となる「西洋」とはどのようなものだったのかを確認するためである。
4. 「冷戦」の基本構造
冷戦とは何だったのか?そんな「昔」のことはもはや誰も振り返らない。世界は20年ばかりのサイクルで更新され、加速度的に変化している。それもグローバル化した世界だ。そんな時代に立ちもどるのは何のノスタルジーのなせるわざなのか。あらゆる意味で自分たちの「今」しか視野に置かない人びとは、そう言ってこの時期を平板化し、「冷戦」
5. 核兵器とは何か
「冷戦」という用語は、20世紀世界におけるメディアの役割に注目させた『世論』で知られる評論家ウォーター・リップマンが著書(『冷戦――合衆国の外交政策研究』)で用いて世界的に広まったものだが、文字どおり「戦火を交えない戦争」という意味である。米ソ対立、あるいは「東西冷戦」とも言われるが、それはアメリカを盟主とする資本主
6. 西洋の次なる「敵」と新しい「正義」
「冷戦」の終結は、「イデオロギーの時代」の終りを告げたとされ、随所で「壁」が壊れてむくつけき市場原理がわが者顔で世界各地の「古い慣習」を壊し、社会を「解放」してゆく。それが、「誤った社会主義」を一掃する「新」自由主義だと言われるようになる。一元化した世界では、どの国もその流れに乗らないとグローバル市場での競争に立ち遅
7. イデオロギー戦争とメディア
近代の戦争はメディアと切り離せない。戦争に諜報・調略はつきものだという技術的な話ではない。戦争が「国民戦争」になって以来、つまり国民国家体制がとられるようになって以来、メディアは戦争の遂行を支える不可欠の要素である。ベネディクト・アンダーソンが古典的な書物で示したように、国民とは「想像の共同体」である。その共同性は新
8. 「テロとの戦争」はいかにして起きたか
20世紀は「戦争と革命の世紀」だったと言われる。第一次世界大戦に始まり、ロシア革命が起き、第二次世界大戦になり、それから米ソ冷戦が、核対峙のもと各所に代理戦争やLIC(正規軍が関わらない低強度紛争――アメリカの政治用語)を引き起こしながら世紀末まで続いたからだ。昔から世に争いの絶えたことはなかったが(それでも戦争はパ
9. 「テロリスト」という非存在
「テロとの戦争」とは、それまでの国家間戦争の枠組みを壊し、戦後の国際法秩序を宙吊りにするものだった。当時のラムズフェルド国防長官は「ウェストファリア体制はもう古い」と言ったが、それはアメリカの危機の時にあって国家間秩序・国際法体制は無視されるという宣言でもあった。アメリカの危機は世界の危機であり、その「非常事態」にあ
10. 戦争の「民営化」
冷戦後に一気に進んだ大きな変化に、戦争の民営化がある。
11. 「アフガン戦争」とは何だったのか
「テロとの戦争」が打ち出され、それが冷戦に代わる世界の戦争レジームになってからすでに四半世紀が経とうとしている。そのきっかけとなったのが2001年アメリカの「9.11」だった(日本では「アメリカ同時多発テロ」という独特の呼び方をする)。世界中の人びとがリアルタイムで目にした(衛星テレビ中継)ニューヨークのワールド・ト
12. イラク―市場「解放」された「ならず者国家」
アフガニスタンの軍事的「破壊と改造」の試みの失敗にふれた以上、もうひとつの国家の「破壊と改造」だった「イラク戦争」にもふれないわけにはいかないだろう。
13. 公衆衛生と戦争
21世紀の「新しい戦争」として打ち出された「テロとの戦争」は、「テロリストの殲滅」を目的として掲げて始められたが、結果的にはかえって「テロリスト」を拡散させただけだった。そして「テロリスト」狩りを口実とした軍事行動をも世界に広げさせた。
14. 核の恐怖とテロリズム
核兵器は開発されてすでに80年が経つ。近代戦争に使われる兵器の進化は著しかった。マスケット銃から機関銃、ダイナマイト、大砲を備えた戦車、戦闘機・爆撃機、化学・生物兵器(毒ガス・細菌)……、十九世紀の初めから、一世紀半で(二十世紀には物理学の飛躍的進歩があり)、兵器の殺傷能力はウナギ昇りに上がり(幾何級数的にというよう
15. ウクライナ戦争が炙り出す「西側」の欺瞞
東西の冷戦が終わって四半世紀が経ち、「テロとの戦争」も後景に退いたとされる昨今、「西側」という用語がふたたび随所で顔を出すのはなぜなのだろうか?
16. イスラエル――ガザ攻撃に見るアメリカとの相同性
ウクライナで戦争が続き、そこにイスラエルのガザ攻撃(ハマス掃討戦)が重なったため、同じような戦争が起こっている(軍事大国が小国を不法に攻撃している)とみなされ、並べて語られる。ロシアとイスラエルが強権国家で、ロシアの侵略を受けるウクライナ国民の「受難」が、殲滅戦にさらされるガザ住民の悲劇と重ねられるというのだ。
17. ヨーロッパと反ユダヤ主義
まず初めにひとつ確認しておこう。反ユダヤ主義とは一九世紀後半にヨーロッパで生れた用語「アンチセミティズム(antisemitism)」の訳語である。日本語では「セム」という語が自明ではないので、分かりやすく「反ユダヤ主義」という語が通用するようになっている。だが、じつはこれが他愛ないしかし深刻な無理解・誤解を生むもと
18. 世界戦争から80年
第二次世界大戦が核兵器の圧倒的な衝撃とともに終息して八十年が経とうとしている。