科学は人間に何をもたらしたか
村上陽一郎
撮影:薮崎 めぐみ
私たちが日々目にするものや触れるものを、科学の存在抜きに語ることは、ほとんど不可能だと言っていいでしょう。インターネットやスマートフォンはもとより、車や飛行機といった交通手段、病院をはじめとする医療施設、映画館や遊園地といった余暇を過ごす場所など、その成果はすみずみにまで行き渡っています。科学が人びとの暮らしを便利に、ある意味で「豊か」にしたことは間違いありません。一方でその陰には、失われてしまったもの、損なわれてしまった価値があることもまた、確かなことのように思えます。現代の社会を基礎づけている近代科学の功罪を、科学史家・科学哲学者の村上陽一郎先生にお聞きしました。
この連載の記事
1. 科学的であるとは
――個人的にですが、いまの世の中って科学的なものの見方が絶対視されているというか、科学的に証明されているものだけが真実でそうじゃないものはインチキだ、という風潮が強すぎるのではないかと思っています。特に日本がそうなんじゃないかという印象を持っているのですが、今日はそうした「科学絶対主義」がどのように醸成されてきたのか、
2. スピリチュアルの領域
――ヴントの内省心理学というのが、無意識を対象とするフロイトやユングの深層心理学へつながっていくという感じでしょうか。
3. 日本の自然観
――スピリチュアルというものがフィジカルやメンタルを超えた何かだとするなら、そこにはやはり各地域の宗教や文化といった共同体の中で共有される価値観が関わってくるように思うのですが、科学的なものの見方が入ってくる前の日本の自然観、世界観というのはどのようなものだったのでしょうか。
4. 進化論の受容
――ご著書(『日本近代科学史』筑摩書房)の中で、日本は鉄砲の伝来以来、科学技術の技術ばかりを採り入れたため、科学的な姿勢の方はなかなか根付かなかったといったことを書かれていますが、明治期の日本に入ってきた科学というのはどのようなものだったのでしょうか。
5. 近代化の行方
――最初に、科学的であるというのはデカルト流に考えるということであり、それは物と心という二つのカテゴリーを設けて、物の方だけを取り扱うことだというお話がありました。それによって、先ほどの医療についてもそうですけど、科学技術は飛躍的に発展した。