ウクライナからの手紙:ある研究者のキエフ脱出記
アベル・ポレーゼ
ここに訳出したのは、キエフを拠点に調査研究をおこなっているアベル・ポレーゼ(タリン大学)のキエフ脱出記である(原文は2022年3月3日から5日まで3回に分けてGlobal Voicesに“Ukrainian Dispatches”という表題で掲載https://globalvoices.org/2022/03/03/ukrainian-dispatches-1-fleeing-kyiv-with-family-and-pets/された)。ポレーゼは、ウクライナにおける「裏の経済(shadow economy)」をめぐる調査プロジェクトを進めていた。2022年2月23日、彼は、キエフに住む元妻、ふたりの子ども、元妻の夫らと一緒に、車でルーマニア方面に向かった。ロシアによる全面侵攻の前日だった。困難な日々の中で、翻訳の依頼に応じてくれたポレーゼに感謝する。(石岡丈昇 記)
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1. キエフ脱出——世界の果てでの家族4世代の再会
午前5時48分。なぜこんなに早く目が覚めたのだろうと思い、時刻を確認する。(元)義理の父が何か喋っていることを理解するまで、少し時間が必要だった。“Demilitarizatsiya i denatsizatsiya”(非軍事化と非ナチ化)という言葉を聞いて、ようやく頭が動きはじめ、全体の意味を理解する。しまった、昨
2. 国境——昨日よりも状況が悪化
田舎道、また田舎道。みな熱心にスマートフォンを見ていて、前線の最新情報を得ようとしている。ウクライナ西部は安全という多くの人びとの想定は、崩れ去った。ロシアはほぼ全域を攻撃している。周りは静寂に包まれている。車は少なく、光景は美しく、冬の木々と山があり、凍った河が見える。元妻は、これらすべての美しさに感嘆している。彼
3. 天使——戦争中でも最大限護られている
さらに状況が緊迫している。国境を歩いて越えようとする人の数が、もっと増えている。多くはインド人である。これまでインド人学生を乗せた避難バスを何台も見かけたが、徒歩の学生たちはどうして避難バスに呼ばれなかったのだろう。その答えはわからない。多くの留学生が付近にやって来て、国境まで歩いている。また、小さな子どもに大きな荷