「仕事はいつまで続けたいの」「結婚の予定は」「出産後はどうするつもり」就職活動の面接でそう聞かれたと、ある女子学生は言います。男兄弟のいる別の女子学生は大学進学の際、親から「あなたの分の学費は出さない」と言われたそうです。昔の話ではありません。現代の日本で普通に起きていることです。「男は外で働き、女は家のことをする」「結婚して子どもを産み、育てるのが女の幸せだ」。未だに、私たちの社会を覆うこうした「常識」は、一体どのようにして生まれるのでしょうか。

 この問いを考えるうえで重要な論点のひとつに、「隠れたカリキュラム」と呼ばれるものがあります。これは正規のカリキュラムのどこにも書いていないのに、既存の制度や教師の行動などを通して暗黙のうちに教え込まれるものがあるという議論で、そこにはジェンダーに関るものも含まれています。たとえば、トイレのマークの色が男性は青か黒で女性は赤であるということは、何か根拠があるわけでもないのに、多くの人の「常識」となっています。「男子が先に書かれた出席簿」の影響はこれよりも深刻です。小・中・高の12年間で朝礼や全校集会、健康診断といった出席を確認される機会はかなりの数にのぼります。その度に子どもたちは、「男が先で女は後」であることを無意識のうちに「学習」していくのです。また、授業中に先生が指名するのは、女子より男子の方が多い傾向にあることも明らかになっています。これらのことが女性の進学や社会進出の「内なる障壁」となっていることは想像に難くありません。

 そして、このような意識は親から子、教師から生徒や学生、おとなから子どもへと受け継がれていきます。母親が専業主婦の家庭で育った子どもが、それを普通のことだと思ってしまうのは、無理もありません。現に、学生がイメージするお母さんの仕事は「犬の散歩」だったという報告もあります(※)。そんなかれらが結婚や出産を迎えたとき、自分自身やパートナーのその後の生き方をどのように考えるのか。不安を覚えるのは、私だけでしょうか。

 世界経済フォーラム(WEF)が毎年公表している男女格差の指標「ジェンダーギャップ指数」において、日本は世界144カ国中114位でした(2017年)。順位は下がり続けてもう下はあまりありません。国会議員や企業の役員の女性比率を見れば、この順位も無理からぬことですことですが、各国は変える努力をしているということでもあります。つまり、これは自然現象ではなく、変えようと努力すれば変えられるということも意味しています

 ジェンダーとは、社会的に作られる性の関係を意味しています。そして、今国際的な目は、固定的な役割分担の見方や関係のゆがみを問うています。その問題は、社会の意識を変えることでしか解決できません。「男だから」「女だから」ではなく、まずは「自分として」どう生きていきたいのか。そして、その一人ひとりの選択が尊重される社会をどうつくっていくのか。それはイデオロギーでもキレイごとでもなく、多様化が推進される国際社会において日本がこのまま取り残されていくかどうかという、極めて現実的な喫緊の課題なのです。

(※)近藤牧子「女子学生のためのキャリアデザイン学習内容と方法への考察―早稲田大学文学学術院講義科目「女性のキャリアデザイン」をとおして」2012年度早稲田大学特定課題B報告書『女性の生涯にわたるキャリア形成支援システムの開発―大学から育児期を中心に―』2013年2月。